ある看護管理者の集まりで「みなさんは『あなたがいてホントによかった。あなたがいてくれなきゃ困るわ』と言われたことはありますか?」と講師が問いかけました。
どうです? みなさんもそう言われたことがありませんか?
長く看護師をやっていると一度や二度はあることでしょう。で、これは感謝の言葉なので言われて悪い気などしないはず。「そんなことないですよ」と謙遜しつつも、内心「そうよね。私じゃなきゃ」と思うこともあるでしょう。
講師に挙手を求められ多くの参加者が「あります」と手をあげました。が、ここで講師がまさかの一言を放ったのです。
「はい、いま手をあげているみなさんの職場は管理に失敗しています!」
ガーン!どういうことなんでしょう。
看護管理が目指すべきは、看護の質の維持
講師曰く、管理職や特定の人がいなくて困る職場にしてはいけない、と。
看護は多くの職種との連携や交代制で担う仕事。「師長がいないとわからない」「○○さんじゃないとできない」という状況を作ってはいけないのです。誰がいても、誰がやっても患者さんが安心、満足できる質の高い看護を提供する。看護管理者はここを目指すべきだと。
看護は「独創性」が求められる仕事ではない
多方面で活動する有名実業家を例に「オンリーワンになれ!」とか「替えの利かない人間になれ」という話をよく目にします。「○○さんだからこそ一緒に仕事がしたい!」「これは○○さんにしかできないことですよね!」というアグレッシブな言葉に、そうならなきゃ!と思う人も多いでしょう。
が、この言葉が向けられる先にあるのは「独創性が求められる仕事」です。
はたして看護は独創性が求められる仕事でしょうか?
看護は個別性が必要と言いますが、それは患者さん個々に応じた意味であって、看護師ひとりひとりが独自のやり方で、という意味ではありませんよね。もちろんただ漫然と決められたことをすればいいというのではなく、よりよい看護を行うために「新しい方法」を取り入れることもあるでしょう。
しかし、よほど研究的な取り組みでもない限りエビデンスが求められ、なにより患者さんの安全が守られなければなりません。
看護は「誰も思いつかなかった、誰もやったことのない方法」が求められる仕事でもなければ、そこを目指す仕事でもありません。
「あなたじゃなきゃダメ」が生む間違った使命感
前述のとおり「あなたがいてくれてよかった。あなたじゃなきゃダメね」は、患者さんからすれば素直な感謝の気持ちです。が、そう言われて嬉しい気持ちが間違った使命感を生むことがあります。
「この患者さんは自分じゃなきゃダメだから」とほかの看護師の介入をさせなかったり、「自分がいないと判断できないから」と師長がスタッフに仕事を任せなかったり。
こうした間違った使命感は残業やオーバーワークにつながり、チームワークを乱していきます。
なにより、いつもその人が勤務しているとは限りません。「○○さんは今日は休みなのでできません」「師長がいないのでわかりません」は、結果的に患者さんや他職種に迷惑をかけてしまうのです。
替えが利く=「あなたの代わりはいくらでもいる」ではない

いつでも替えが利く状態にしておくことこそ看護管理に求められることです。が、替えが利く=「あなたの代わりはいくらでもいる」ではありません。そういうふうに伝わってしまうと、スタッフはやる気を失ってしまうでしょう。
スタッフひとりひとりは、病棟やチームで「誰がいても、誰がやっても患者さんに満足していただける質の高い看護」を目指し、維持していくために必要なメンバーです。代わりがいくらでもいるものではありません。
経験年数や特性によって看護師個人の課題はさまざまです。かけがえのないひとりとして成長を支え、「替えが利く」=「質の高い看護を維持できる」看護師を育てていきましょう。